第1036回 遠い高校時代をふりかえる ②
自分はひとりっ子として育ち、高校時代はもう母子家庭の境遇にありました。そのこと自体には引け目もなく、“何くそ”の気持ちにつながることもありましたが、“父のようにはなりたくない”との思いは特徴的でした。
学歴には恵まれなくても向学心は強かった父。自営業を興して一時は羽振りが良かったものの、その失敗後は職も転々として上手くいかず、母に苦労をかけ続けた父。親子である以上、性格や傾向で父に似た部分を発見しながら、自分は社会的に落後せずに、元気で働いて自分らしさを発揮したい、との思いを深めていました。父の軌跡を反面教師にしようと思いました。
高校時代にぼんやり自覚したのは、自分はお金儲けの仕事には向いていないこと、内向的で真面目過ぎるのが不安だけど、粘って取り組む力はありそうなことなどでした。本を読み続けられる仕事がいいな、との気持ちを手がかりに見えた希望は、「出版へ行って本を作る」または「社会科で高校か中学の教員になる」という方向でした。教育学や社会学を専攻できる国公立のどこかへ行こうとの志望も定まりました。
予備校等は行かず、通信添削やラジオ講座も一部利用しながら、受験勉強をしました。冷房が欲しくて出かける満員の公営施設でよくウトウト寝たり、何冊も買い込んだ参考書や問題集が消化不良でなかなか一冊完了しなかったり、不器用な自分にいつも苛立ちながらの日々でした。
それでも定期試験や模擬試験の復習を丁寧にやったことだけは自己評価でき、いまでも生徒達に自信を持って語れることです。
幸いにも現役で志望校に合格しましたが、同じ日に他の大学を不合格になった級友がわざわざ私の掲示発表に来てくれ、心から祝ってくれた友情に今でも感謝の念がわきます。三年間を共にした仲間達は現在、「五年に1回」から「三年に1回」へとクラス会の頻度を上げ、貴重な機会になっています。
何か1つでもいいから、“自分にはこの世界がある”と誇りに持てるものがあることは学校時代の大きな支えになります。好きな教科、部活動、習い事、趣味など対象は多彩でいいのです。
そして“自分はこんな人生を築いていきたい”とか“自分のこんな持ち味や良さを発揮して働きたい、暮らしていきたい”という願いをしっかり育んでもらいたいと思うものです。その願いが強ければ、その先の人生で訪れる出会いやチャンスを高い感度を持って受けとめることができると思われます。
時代は変わっても真理は変わらないでしょう。10代に芽生えた問題意識やこだわりの気持ちは、その後の長い人生の大事な手がかりになると思われるのです。
明日はいよいよ合唱コンクールの当日です。この時期は休み時間や学校からの帰り道にも、歌を口ずさむ生徒達の様子があって微笑ましいです。
最後の追い込みをはかる今日、各クラスの団結がさらに深まることを期待しています。