第1240回 連続テレビ小説の総集編から

2016年1月12日

冬休み中、長時間目を離せなくなったテレビ番組がありました。NHK連続テレビ小説『マッサン』の総集編です。一昨年9月末~昨年3月末に放映され、全国的な話題を集めましたが当時は観ることもなく、今回初めてあらすじを知って深い感銘を受けました。

在校生や卒業生にもこの先に観る機会があればと願い、拙い紹介をさせて頂きます。

国産初のウィスキー造りに生涯の夢をかけたマッサンと、その本場スコットランドから来日して夫と苦楽を共にして生きたエリーの物語です。著名な酒造会社の創業者夫婦がモデルとされ、相当な部分が史実に基づいて描かれている作品です。

私が最も感動したのは、妻エリーの懸命に生きる姿です。次々と起こる事件や苦難にまけずに周囲の人びとをいたわり、夫の決断を支え、励まし合って強く生きぬいた姿です。

 

エリーは以前に同郷の婚約者がいましたが第一次大戦で帰らぬ人となり、失意どん底の時に洋酒の技術を学びに単身渡英したマッサンと出会います。来日した彼女は彼の実家の大激怒や周囲の偏見に接し、マッサンの婚約者にも責められるなどピンチの連続でした。

それでも懸命に料理や家業や日本の作法を覚え、困窮した時も夫を支え続け、近所の人達と助け合います。縁あった家庭の不和の解決につくしたり、ウィスキー事業が断念の危機に直面するたびに、弱音をこぼすマッサンに初心に返るよう激励します。待望の子供を授かりながら果たせず、更に子供はもう持てないとの事実を知った衝撃を、赤ちゃんの分まで夫婦で生きると決めて乗り越えます。自分を認めなかった夫の母も献身的に看護するエリーを最後に認めます。

北海道の地で、母に似ていないといじめられる養女エマに事実を打ち明け、世界一の両親だと堂々と語る娘の姿がありました。完成したウィスキーが売れずに倒産の危機こそ工場の海軍指定で免れましたが、日本と米英の開戦により特高警察により家宅を捜索され彼女は連行されそうになります。離縁出国の選択もある中で、エリーは親子3人離れずに日本で生きぬく決意を新たにするのです。

第二次大戦後、貧しくも希望を持って歩み出した社会の需要に応えて、マッサンの事業は大発展しました。しかし1960年代にエリーは病に冒されます。番組のラストシーンは涙なくして観られません。2人きりの最後の時間で人生の想い出をしみじみと語り合います。私が逝ってから読んでねと手紙を渡されます。ぜひ観て欲しい感動深い場面です。

その10年後マッサンがエリーへの思いをこめて製造したウィスキーが、スコットランドの品評会で特別賞を受賞し記念式典が開催されました。出会いから半世紀もかけた2人の“冒険旅行”。夢をかなえた夫婦愛の深さに全国の視聴者は感涙を共にしたことでしょう。

 

「日本の朝に、笑いと涙と夢と元気をたっぷり届けた」番組と評されました。マッサンとエリーをとりまく幾多の登場人物の人生模様にも興味深いものがありました。大戦をはさむあの時代に、このような家族の人生の軌跡があったのだと深い感動がありました。

グローバル時代の中で、国境を越える恋愛や婚姻はこれからいっそう増えていくことは間違いありません。そうした意味でも次世代の若い人達に幅広く視聴してもらいたい番組です。言葉や文化の違いを越えて愛を深め、共に生きていく強さと素晴らしさを知ってもらいたいからです。