第538回 人生への励ましとヒントに満ちたすてきな本
ベストセラーとなった本には、まず距離を置いてみる癖があります。この本も同様でしたが、テレビで著者のことを観て、すぐに購入を思いたちました。
渡辺和子著『置かれた場所で咲きなさい』(幻冬舎)。
すでにごぞんじの人、読まれた人もいらっしゃることでしょう。一日で読了できる著作であり、生徒諸君にも保護者の方にもお勧めしたい本です。折にふれ読み返し気持ちを支えてくれる、座右の書に加わる一冊だなと感じました。
渡辺さんは、現在ノートルダム清心学園理事長を務める、85歳の教育者です。9歳の時に軍人だった父が、二・二六事件に遭って目の前で殺されました。30歳間際で修道院に入り、渡米後に日本に戻り、36歳で未知の土地で女子大の学長に就任されます。
苦労の連続の中で、「置かれた場に不平不満を持ち、他人の出方で幸不幸が左右されたら環境の奴隷でしかない」「人間と生まれたからには、どんな所に置かれてもそこで環境の主人となり、自分の花を咲かせよう」と決心を深めたそうです。進んで挨拶し、微笑みかけ、お礼を言う生活に努め、周囲の変化を確認できました。学生たちには「時間の使い方はそのままいのちの使い方ですよ。置かれた所で咲いて下さい」と説きました。どうしても咲けない時、雨風が強い時や日照り続きの時には、「無理に咲かずに、その代わりに根を下へ下へと降ろして根を張るのです。次の咲く花がより大きく美しいものになるために」と励ましました。
渡辺さんは、人生において、思いがけず穴がポッカリ開くことがあり、そこから冷たい隙間風が吹くことがあると説明されます。大小や深さも様々で、その穴を埋めることも大切だが、「穴が開くまで見えなかったものを穴から見ることも、生き方として大切なのです」と説いています。
ある時、女子大生たちに講義の中で、この人生の穴について話したところ、その後一人の四年生が来て「シスター、この夏休みに、私の人生に穴が開きました」と言ったそうです。・・・・自分は思いがけず婦人科の手術を受けて、子どもが産めない身体になったかもしれないと医者に告げられた。実は結婚を前提につき合っていた男性がいて、無類の子ども好きだった。覚悟を決めて打ち明けたら、その男性は心配しなくていい。僕は赤ちゃんが産める君とでなくて “君”と結婚するんだから、と話してくれた。この穴を通して相手の誠実さと無条件の愛の深さを知ることができた。・・・・・
実は渡辺さんの人生にも、今まで数え切れないほどの多くの穴が開いたが、その穴から見える恵みと勇気、励ましも与えられてきたのです、と記されています。(明日へ続く)