中学1年英語:「不思議の国のアリス」の裏側

2014年11月28日

 中学1年生の教科書に「アリスとハンプティー・ダンプティー」という読解単元があります。皆さんもご存じの「不思議の国のアリス」から抜粋されたものです。今回は授業で扱った、一般に知られざる「不思議の国のアリス」について皆さんにご紹介します。

 さて、まずは実際に使っている教科書をご覧いただきましょう。

 

 

 なかなか可愛らしいイラストですね。参考までに左ページの文章とその仮訳をお見せします。

 

Run, run, run.

The rabbit holds his watch.

“I’m late. I’m late. I’m late.”

He runs into a hole.

Alice follows the rabbit.

She falls into the hole.

Down, down, down.

She goes to Wonderland.

走る、走る、走る。

ウサギが自分の時計を握っています。

「遅れる、遅れる、遅れる。」

彼は穴へと入っていきます。

アリスはウサギの後を追います。

彼女は穴へと落ちていきます。

下に、下に、下に。

彼女は不思議の国へと行きます。

New Crown English Series 1 三省堂 2011 pp. 76より抜粋

 

 単なる読解としては、上記の仮訳に大きな問題はありません。でも、湘南学園の授業ではただ日本語に訳して満足はしません。実はこの英語の原文を音読すると、実にリズミカルなことに気づきます。その理由は、この文章のすべての行に強く読む箇所が3カ所あるからです。授業では、教員の手拍子に合わせて音読活動を行いました。

 一つ嬉しい予想外の話。あるクラスでの出来事ですが、とある生徒が「すべての行に強く読む箇所が3カ所あって、行から行の休み部分と合わせると四拍子になるのでは?」と指摘してくれました。なるほど!!というわけで、早速ボランティアの生徒の指揮(?)で文章を音読してみたところ…

 

 とてもすばらしい合唱ならぬ合読(?)になりました。実に、おもしろい!

 さて、「この英語のリズム感を日本語に反映させるためにはどうしたらよいか?」ということも生徒と考えてみました。具体的には、以下の二つを生徒に提示し、日本語の「リズミカルさ」を改めて考えてみました。

 

(例1) 古池や 蛙飛び込む 水の音

(例2) 持とうよ歌を / 唇に / 星を秘めたる / 青空を

 

 例1は言わずと知れた松尾芭蕉の句(ちなみに「古池や」を「コイケヤ」と読んだ人!ポテトチップスの食べ過ぎです!)。例2は湘南学園の校歌です。「あっ!5・7のリズムだ!」と気づいた人、正解です。さっそく、この5・7のリズムを生かして日本語訳を考える宿題をだしました。以下に、おもしろかった生徒の訳を紹介します。原作のリズム感が生かされた訳になっています。

 

走る、走る、走ってる

ウサギが時計を持っている

「遅れる、遅れる、遅れちゃう」

ウサギが穴へと入ってく

アリスはウサギを追っていく

アリスも穴へ入ってく

下へ、下へ、落ちていく

不思議の国へご案内

 

 さて、今度は文化的な話。皆さんは「不思議の国のアリス」と聞いてどんなイメージを思い浮かべますか?冒頭にあった教科書の挿絵、ないしディズニーのアニメーションを思い浮かべた人が多いのではないでしょうか。でも、あなたのイメージしたものと、作者のイメージが結構違うと言われたらどうでしょう?テニエルの初版本の挿絵や実在するモデルとなった少女アリス・リデルの写真を見てみると、皆さんのアリスのイメージと結構違っているのではないかと思います。現在のアリスのイメージはディズニーのアニメーションの影響が強いことが伺われます。興味のある方はインターネット等で調べてみてください。(→参考ページ

テニエルの初版本挿絵(1865)

ラッカムの挿絵(1907)

アリス・リデル



 最後に、「不思議の国のアリス」の作者ルイス・キャロルについて。彼の本名はチャールズ・ラドウィッジ・ドッジソンといい、数学者を生業としていました。また、作家以外に写真家・論理学者という一面もありました。彼は特に時間に関してのこだわり・考えを強くもっていたと思われます(アリスにも時計を持ったウサギが登場しますね)。そんな彼が投げかけた興味深い質問を紹介しましょう。
 
質問:針が完全に止まってしまった時計と、針が1分遅れて動いている時計の二つがある。どちらも不完全であるが、強いて言うならどちらの方がより正確な時計か?
 
 さて、読者の皆さんも一緒に考えて下さい。答えはこのページの下に書いてあります。

 湘南学園では、教科書の内容をただ学習するのではなく、その背景にある知識や日本との比較を通じて文化的に成長することを目指した英語教育を行っています。
 
 
 
 
 
答え:針の止まった時計の方が正確である。1分遅れの時計はいつまで経っても正しい時間を表示しないが、針の止まった時計は確実に1日2回正しい時間を指し示すから。