シリーズ:ピーターラビット 第3回 ピーターラビットにみる教育の価値 ~作者が受けた教育~

2016年5月28日


 

このシリーズも第3回になりました。あらためてピーターラビットの世界へようこそ。今回はビアトリクス・ポターがピーターラビットの作品を生み出すことになった背景を「教育」という視点から見てみたいと思います。

 

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このシリーズ第一回でビアトリクス・ポターには家庭教師がいたということを書きましたが、覚えていらっしゃるでしょうか?当時の裕福な家庭では、子どもに普通の学校に行かせる代わりに、乳母と家庭教師をつけて質の良い教育を施すことが一般的でした。現代でも「親が子供に贈る最良の贈り物は教育」という言葉が聞かれたりしますが、時代が経っても子を想う親の愛は不変/普遍です。ちょうど左の写真にビアトリクス(右)とその家庭教師(左)彼の息子であるノエル少年(中央)が写っています。ビアトリクスは当時教養の基礎であり尚且つ信仰の中心たる欽定英訳聖書を家庭教師とともに繰り返し読んだと伝えられています。ビアトリクス・ポターがピーターラビットの格調高い文章を書くことができた背景はここにあります。また、彼女は幼いころから観察眼に優れており、小さいころから生き物の観察をしてはスケッチにいそしむ生活を送っていたようです。また、教育熱心な親によって顕微鏡までが家に常備されていたようで、それを使っていろいろなものの観察をしていたそうです。現代なら文系にも秀でたリケジョ(「理系女子」のこと)といったところでしょうか。実は本人も研究者になることを本気で考えていた時期があったようで、キノコ類や粘菌の培養といった本格的な実験に取り組み、その成果を研究論文にまとめたこともありました。まとめた論文をロンドン・リンネ学会に提出したようですが、残念ながら当時は女性蔑視がまかり通っていた時代であり、しかも学術の世界は男ばかりの世界であり女性に虚栄心を邪魔されることをよく思わない風潮がありました。彼女の論文は黙殺されました。この件に関してリンネ学会は「女性蔑視があった」との謝罪声明を出しますが、それは1997年のことでした。

 

この件で学術の世界を見限ったのか、ビアトリクス・ポターは芸術・文学の世界に活路を見出します。もちろん、彼女が情熱を傾けてきた生物の研究も生かされています。ピーターラビットの世界にでてくる動物・生き物のバリエーションが豊かなこと!また、作者自らが筆をとって描いた挿絵にはとても写実的で生き生きとした動物・生き物の姿や、当時ありのままの豊かな自然が見て取れます。こうした視点でピーターラビットの本を見てみると今までと違ったものが見えてきます。このような背景のもとでピーターラビットの話は世に登場しました。ビアトリクス・ポターという一個人の才能による部分が大きいですが、教育の成果ともいえる部分も多くあります。ビアトリクス自身自分自身が受けてきた特別な教育を回想して「個性を尊重してもらい伸び伸びと成長できた」といった趣旨の発言をしています。こういった話を聞くと改めて「教育とはなにか」ということを考えずにはいられません。このブログの読者のみなさんにもそう感じていらっしゃる方が多いのではないでしょうか。

 

 

三回にわたってピーターラビットの世界について語ってきましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。また機会があれば、授業で扱った興味深い内容についてブログでご報告させていただきたく思います。