シリーズ Incredible India! 知られざるインド文化 第1回「インドの挨拶のあれこれ」
2016年度もいよいよ最終盤を迎えています。中学校2年生の英語学習でも教科書に8つあるLessonのうち最後のLesson 8を学習しています。Lesson 8はインドの文化・言語事情の話が中心となっています。以下にLesson 8の概要を示します。
授業単元:Lesson 8 <India, My Country>文法事項:受け身(受動態: be動詞 + 過去分詞)授業目標:一般動詞の過去分詞形を定着させる受け身の文法構造について理解を深めるインドの文化について興味を持ち理解を深める |
英語の教科書とLesson 8のタイトルをヒンディー語で書いたメモ
今回の学びBLOGではインドの文化について授業者自身が体験したことを織り交ぜて授業で紹介した内容をIncredible India!(すごいインド!)と題して全4回にわたって紹介したいと思います。
まず今回紹介するテーマは「インドの挨拶のあれこれ」についてです。
一般によく知られているヒンディー語の挨拶Namaste.(ナマステー)。みなさんもどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。また、Namaste.と挨拶するときには胸の辺りで合掌し、軽くお辞儀をします。意外と知られていないのが、Namaste.は「さよなら」も意味することでしょうか。世界的な見地からすると「こんにちは」と「さようなら」の挨拶が同一という言語は数多くあり、特に南アジアや東南アジアの諸言語にそういった特徴を見て取ることができます。
また、挨拶の時に合掌するスタイルはアジア圏を中心に幅広く伝わっています。例えば有名なのが、タイの合掌「ワイ」でしょうか。挨拶の時に胸の前でワイしながら「サワディーカー」ないし「サワディークラップ」といいます。タイのマクドナルドではドナルド・マクドナルドが合掌しています。また、日本にもタイ同様に合掌する文化がインドより伝わってきています。仏様に祈るときや、ご飯時の挨拶「いただきます」や「ごちそうさまでした」を言うときにみなさんも合掌するのではないでしょうか。これも元をたどっていくとインドの影響です。
タイのマクドナルド:合掌はインドの影響
ではここからが驚きの事実。Namaste.のnamasの部分は、念仏の「南無阿弥陀仏」の「南無」と同じ語です。Namaste.は言語学的にNamas + teに分解することができ「信じる」+「あなたを」といった意味が合わさったものです。念仏の「南無」の部分も「帰依します」「信仰します」という意味ですので「南無阿弥陀仏」とは「阿弥陀仏を信仰します」ということを示しています。
ヒンディー語も念仏の「南無阿弥陀仏」も両方とも古代インドの言語サンスクリット語(梵語とも呼ばれている)に源を発します。仏教も経由地である中国の影響を受けながらも、やはりインドのものなのです。実は、仏教とともに日本に伝わった語彙の多くはサンスクリット語が起源です。たとえば、現代ヒンディー語で「地獄」を意味するのがnarak。日本語の「奈落のそこに堕ちる」の奈落と同じです。こうして考えてみると日本語の成り立ちというものがより興味深く思えてくるのではないでしょうか。
また、ヒンディー語を表記するのに用いられている「デーヴァナーガリー文字」にも興味深い事実が隠されています。デーヴァナーガリー文字の文字の並び(英語で言うところのABC順)はa→ka→cha→ta→na→pa→ma→ya→ra→waとなっています。どこかで似たようなものの聞き覚えがありませんか?そうです。日本語のあ行の音ですね。「あかさたなはまやらわ」の順は実はインドのアルファベットの並び順になっています。
デーヴァナーガリー文字でHindiと書くとこうなる
ここで話題を少し変えますが、みなさんは普段挨拶でなんと言いますか?「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」といったところではないでしょうか。「何を当たり前なことを!」と思われるかもしれませんが、インドではこの当たり前は通じません。実は、インドではそれぞれの信仰する宗教によって挨拶の仕方が異なります。先に紹介したNamaste.はインドで最も広く信仰されているヒンドゥー教の信者(+ ジャイナ教徒と仏教徒)の挨拶です。インド国民の15%弱はイスラームを信仰しており、彼らは挨拶でAs-Salamu Alaykum.(あなたに平安がありますように)と挨拶します。また、2%程度の信者がいるシク教徒はSati S’ri Akala.と挨拶するそうです。「じゃあ宗教が違う人に挨拶するときはどうするの?」という疑問を持たれた方はかなり鋭い感覚をお持ちです。この質問をインドの方に聞いたら、「そういった場合はHello!と挨拶する」とおっしゃっていました。こういうときは英語の出番ですね。
さて、今回はインドの挨拶を中心にお話してきましたが、次回の学びBLOGではインドの宗教事情について「食のタブー」を中心にお話させていただきます。楽しみにしていてください。