第60回 欧州で医師への道:ある卒業生の進路選択
先週金曜日の夕方に、ある卒業生の女性が訪ねてくれました。
その人は澤地絵莉子さんです。中高時代は吹奏楽部に所属し、大きな楽器のユーフォニウムを担当していました。2年前に高校を卒業しましたが、彼女は難関の医学部をめざして浪人したと聞いていました。
久しぶりにお会いして、その後の彼女の生活を知り、感動で胸がふるえる思いでした。特に本校の高校生、中学生の皆さんにも、あるひとりの先輩の選んだ進路、その大きな志について、ぜひ紹介したいと考えました。直接ご本人から伺ったお話をまとめてお伝えすることにします。
私は中高時代のある時期から、途上国の人びとと関わる国際支援の仕事に就きたい、それも直接人びとと関われる医療の世界で貢献したい、という夢を持っていました。高2~高3の頃はいろんな悩みが重なり辛い日々もありましたが、医学への志はしっかり持ち続けていました。
予備校である先生の紹介から、興味深い情報に出会いました。ヨーロッパのある国で、広く医学を目指す海外の青年に呼びかけ、準備教育を経て医学部入学への道を開く大学があることを知ったのです。すぐにその説明会へ参加したらこれだ!と感激し、渡欧の決意をしました。世界のいろんな国の人とも知り合えて、日本以上に初心をかなえるルートが開けそうだと直感したのです。
その国は、中欧の「ハンガリー」です。日本語を使える選考試験をくぐって現地へ行き、まず予科コースに入りました。英語漬けのハードな日々が始まりました。英語は好きだったし、初対面の人に話しかける積極性も持てました。同じ日本人留学生どうしで「群れる」ことは絶対しないと決めて、英語と専門につながる猛勉強を続けました。ブダペストの街でアパートに一人暮らしをして、ホームシックと無縁ではなかったけど、半年もすると英語力・会話力もグンと上がり、どんどん新しい友達が出来て、毎日が充実していきました。自分の選択が正しかったことが嬉しかったです。
そして首都から少し離れたその大学の医学部の、全科目オール英語の入試に合格して、ついに未来への道が開けました。この9月から本科生としての学生生活が始まります。4日前に帰国したばかりで8月下旬まで日本に滞在しますが、また戻ってこれから6年間ハンガリーで医学生として学び続けます。EU(ヨーロッパ連合)統一の医師免許を得られる資格試験をクリアーすると、EU諸国のどこでも就職できる可能性があります。経験を積んで、いずれは<途上国での医療支援>に関わる仕事をしたい、と願っています。
ブダペストは、とてもインターナショナルな都会でした。欧州各国はもちろん、アメリカからもアフリカからも多くの若者が集まっています。英語力を磨くことは絶対必要です。海外に行って一番大事なことは「トライ!トライ!」の前向きな気持ちです。自分の思いや誠意は国が違っても必ず伝わります。でも自分からコミュニケーションをとらなければ、孤立や不安が続くだけです。
地球上のいろんな所から集まった人たちが友達どうしになれるのは、素晴らしいことです。ブダ地区とペスト地区はドナウ川をはさんでよく行き来します。
夏は日射しが強くて暑いけどカラッとしています。冬は零下10度以下になる日もあります。若者達にはやる文化は多彩ですが、日本と似ているところもあります。内陸国で魚はあまり見かけず肉が中心です。野菜は帰国して種類の多さは日本にかなわないなと思いました。ハンガリー語も少しずつ覚えています。
(学園の高校生、中学生にぜひメッセージや助言をお願いします、と頼むと) チャンスがあれば、出来るだけ早いうちに海外へ行って欲しいです。ショートステイでもいいから、語学研修への参加も強く勧めます。親御さんに頼んでみてください。なぜかというと、海外に行くことで必ずいろいろ大切な事に気づき、考えるからです。まず、いつも当たり前の両親の存在やわが家がどんなにかけがえのないものかを。私も離れてみて母や父への感謝の気持ちがこみあげました。日本の社会や暮らしや人間関係についてもまるごと考える機会になります。日本が愛おしくなります。人がいっぱいいて商品はやたら多くて、時間をきちんと守って・・・・・・日本のすごさと一方で弱点とか直したい点とか、いろいろ気づかされます。そして海外にポツンといる自分を見つめます。今までとこれからについても考えるでしょう。どんな人生を選んでいこうかと真剣に考えるきっかけになるかもしれません。海外に行けば見るもの見るもの新鮮で、刺激がいっぱいです。感受性の若いうちにそんな体験をした方が絶対いいです
よ、と学園の皆さんに伝えて下さい。
新しい生活を語る澤地さんは、キラキラ輝いていました。自分の選んだ進路に納得し、新しい自信と意欲にみなぎる彼女はとってもチャーミングでした。全身か らオーラを放っている感じすらしました。全校生徒の皆さんに、彼女の話を直接届けたいですが、これから彼女は遠い異国の地で勉強を続けます。
いつかその後の人生と仕事について語ってもらう機会がくれば、とも願って、先日のお話を皆さんにお伝えたしだいです。