第1014回 転換期を生きる若者とキャリア教育を考える本 ①
中間試験の答案返却が各科目で進められています。
個々の点数に一喜一憂するのはやむをえませんが、丁寧な復習と振り返りこそが大事なことです。担当の先生の指示や助言に沿ってテストの復習・やり直しに積極的に取り組めれば、この先の学習と成績向上に間違いなくつながります。全科目でなくて数科目でもその努力が肝要なことです。
今日は手軽に読める優れた新書をまたご紹介したいと思います。『キャリア教育のウソ』(児美川孝一郎著、ちくまプリマー新書197・2013年6月刊)という本です。
この本は、現代の社会が不安定で変化が激しく、若者がどう進路を選んで生きていくのか悩み、周囲の大人も助言が難しくなった状況を捉えます。
その中で急速に広まった従来の「キャリア教育」が、的外れな実態になっていることを分析します。その上で本物の「キャリア教育」とは、どんな指導の視点を軸に組み立てられるべきかを追究し、若者にも直接励ましのメッセージを届けている書物です。
わが職場で薦め合われて読者が増えました。教員や保護者に幅広く推薦でき、大学生や高校生にも紹介したい本だね、と話し合われています。書店やネットでご覧になってもらえたらと願い、筆者の問題提起を大まかに紹介いたします。
筆者は大学教授であり、ゼミナールでも20年近く学生達と関わり、200名近い卒業生を送り出してきました。
この本はまず、「それぞれの卒業後」と題して、4名の男女が卒業後30代後半までどんなキャリアの歩みをたどったかの紹介から始まります。“ロスジェネ世代”の卒業後は、変転を重ねて予想もつかない軌跡を経ていました。新卒就職をしながら離職したり、未定のまま大学を出たがその後新たな希望を見出して着任できたり。標準的なキャリアの予測が相当に困難となった現状が浮き彫りにされます。
そこで「若者たちの100人村」という興味深い推計チャートが示されます。高校卒業以後の進学・就職・転職などをシミュレーションして割り出すと、様々なルートを総合してみて、実はまっすぐにキャリアを歩んでいる人=「ストレーター」は全体の半分以下になるのが現代日本の社会であることが判明されます。どこかで就労しても挫折や滞留や転向を余儀なくされるケースが急速に主流になりつつあるのです。
こうした社会情勢を受け、今世紀に入って文部科学省を中心に「キャリア教育」が急速に普及されました。端的にいえば学校教育を通じて「ストレーター」をまた増加させようとの行政側の意向がありました。しかし実際には社会の動向はその後さらに「予測不可能性」を強めたことが述べられます。
そうした現実に適応できるような“準備体操”としても深められず、キャリア教育の内実は現場の善意にもかかわらず的外れなものになったとされます。“ウソ”と突き放してみる必要があるとして、この書名の由来が述べられます。(明日へつづく)