第1100回 HBの鉛筆をめぐって
先週NHKのある番組で、小さな、でも興味深い不思議なテーマが扱われていました。現代の子どもの状況を考える小さな題材です。今日はそのテーマについてご紹介したいと思います。
「HBの鉛筆が文具店でほとんど売られなくなっている」という話です。
都内のある大きな専門店では、HBの鉛筆については売り場全体の300分の1しかスペースがなかったそうです。
小学校の入学のしおりに、鉛筆はBか2Bを使用すると規定している例もありました。小学校6年生くらいになれば選択は自由でも、やは濃いめの鉛筆派の児童が多く、親も濃いめを購入して与える場合が増えたそうです。
鉛筆の生産でも2BやBが主流で、HBはシェアが減るばかり、売り上げ全体でもわずか8%だったそうです。
街で大人に子ども時代の使用鉛筆のアンケートを取ると、30代以上の世代はHBばかりだったの回答が多く、20代前半より下の世代は2Bなどが増えていました。
その背景は予想通り、原因はやはり子ども達の「筆圧」の問題でした。
筆圧が弱くて何を書いているか分からない字を書く子どもが増えているのが、小学校現場の悩みでした。やっと読めるほどの字でも2Bの鉛筆だったということもしばしばだそうです。子ども達の筆圧が弱くなっていることは各地の教育現場から報告が続いているそうです。字を書くのに必要な腕のバランスが使えなくなっている傾向が専門家から指摘されていました。
自分が生徒の時代には、Hや2Hを好むクラスメイトもいました。字が薄いからHBにしなさいと親や先生に言われる生徒も少なくなかったようです。その間の「F」も流行していたように思います。自分はBか2Bを愛用し、筆圧が強くて大きな字で、“すぐ山田の字と分かる”と言われていました。
ある時代からシャープペンシルが主流になり、自分も使いました。高校や大学の受験では削り立ての鉛筆をいっぱい持参しても、ふだんはシャープペンシルだけという生徒が多いことを、教員になってからも見てきました。
自分自身は年を重ねてまた鉛筆派に移りました。パソコンで文章を作ることが多くなっても、人の話の聞き取りなどでは鉛筆でメモするのがラクで書きやすいという感じです。
番組では、筆圧の弱さにとどまらず、現代の子ども達の間に「手首の機能の弱さ」がいろいろ出ていることが指摘されていました。
活発な子が瓶の蓋をうまく開けられない、ひもで物をしばることがうまく出来ないといった例です。スマホやパソコンやゲーム機とつきあう時間も長くなり、昔の子どもが当たり前にやっていたいろいろな動作をすることが減ってきたからなのでしょう。
学校ではまず、きちんとノートを取ったり、作文や日記を書いたり、きちんと周りが読める字で書く機会をふだんから重ねていくことが大切だと改めて思われました。