第539回 人生への励ましとヒントに満ちたすてきな本(続)
昨日の続きです。渡辺さんの人生で一番つらかったのは、50歳になった時に開いた「うつ病」という穴でした。信仰を得てから三十年あまりが経っても、学長職や修道会の要職による過労から、一時は自信を全く失ったそうです。
二年間の闘病を経て、他人の優しさや自分の傲慢さにも気づき、以前より優しくなり、他人の弱さを理解できるようになったと記されています。学生や卒業生へのメッセージもこの経験を経て更に深められたことでしょう。
「人はどんな場所でも幸せを見つけることができる」「人はどんな境遇でも輝ける」、これが渡辺さんの力強い第一のメッセージです。
「現実が変わらないなら、悩みに対する心の持ちようを変えてみる」「いい出会いにするためには、自分が苦労をして出会いを育てなければならない」との助言も心にしみいります。
東日本大震災や我が子の障がいに悩む母親の事例も示されます。「悩み疲れる前に別の視点から考えてみよう」「見方が変われば、悩みが消えなくても勇気が芽生える」・・・・目の前にある現実をしっかりと受け入れることが出発点です。ではどうするのかと思いを馳せ、悩みを受け入れながら歩いていくことにこそ人間としての生き方があります、と説いています。「人生は学校であり、幸福よりも不幸の方が良い教師にもある」「苦労の多い人生から立ち上がる時の方が発展の可能性がある」とも表現されています。「人はどんな険しい峠でも越える力を持っているし、苦しさを乗り越えた人ほど強くなれる」とも励まされています。その上で子育てに悩む親や教育に悩む教師へメッセージを送り、「考える」ことは自分自身に語りかけることと説かれています。
心に強く残った箇所をもう一つ紹介します。「ほほえみが相手の心を癒す」という章でした。心が平穏でない時、難題をいくつも抱える時、体調が悪い時、笑顔でいるのが難しいこともあるが、渡辺さんは常に明るく振る舞い、笑顔を心がけているそうです。ある詩との出会いも経て、「チャームポイントとしての笑顔」から「他人への思いやりとしての笑顔」更には「自分自身の心との戦いとしての笑顔」への転換の始まりとなった、とあります。それは「微笑むことの出来ない人への愛の笑顔」であると同時に、「相手の出方に左右されずに私の人生を笑顔で生きる決意であり、主体性の現れとしての笑顔でした」との一節が強烈でした。
「自分自身との戦いの末に身についた微笑みは、他人の心を癒す力がある」ことの発見にも言及されています。こんな境涯は、いまの自分には到底届かない高い極みと感じられます。確固とした信仰を持つ人はこうした気高い境地に届くのだとの敬意もいだきました。とても自分には無理だと思いつつ、どこかで心がけていければと思いました。
「“あなたが大切だ”と誰かにいってもらえるだけで、生きてゆける」との一節にも深く共感しました。「老いは人間を個性的にするチャンス」との一節は、これからの人生行路の道しるべに加わりそうです。
以上拙い紹介でしたが、ひとりでも多くの方々にまた生徒諸君に、この本を手に取るきっかけになれば、実際に読んで頂いて新たな希望に恵まれればと願っています。