第502回 95年間の軌跡~ある偉大な人生に学ぶ(続)
小宮山量平氏は、90歳を過ぎた頃から「長生きは命の芸術だよ」とよく語っていたそうです。長女の荒井きぬ枝さんのブログには、「父は穏やかな旅立ちに先立って“ありがとう、ありがとう。おもしろかったね。”とくり返していました」と記されています。亡くなる2日前の夕方に突然敬礼をして「がんばれよ!」と言ったそうです。軍隊時代に戦地へ送り出した部下達の顔がきっと見えたのだろうと、「あいつらの分も生きる、あいつらに恥ずかしくないように生きる」思いが戦後の父の生き方だったと、記されています。
「童心ひとすじに」の番組の中で、小宮山氏は「僕が語り伝えたいのは、大変に生きてきたけど、どの時代をとっても楽しかったという思いです」と語っていました。「よくあんなに陽気でいられるな」と笑われるけど、本当に「あれも楽しかったこれも楽しかった」、しかも「僕が話すと三倍ぐらい楽しいお話になる」と言うのです。
その源は「童心」にあると氏は唱えます。子どもの明朗で機嫌の良い姿にこそ尊さがある、と強調されます。小宮山氏にとって、平凡な里山に四方を囲まれた、子ども時代の故郷の生活が原点でした。毎日裸で川遊びに熱中し、キノコ狩りを楽しみ、梅・桃・杏・桜の花に一斉に囲まれる時期に毎年恵まれました。その故郷の中心は千曲川でした(自伝的大作もこの題)。川遊びの故郷に恵まれて自分の基盤が出来たと思える、と小宮山氏は語ります。
楽しいことを語り合うことが人間のおつき合いの基本なのに、人間は用事のために付き合う関係ばかりが主流になってしまった。面と向かって「やあこんにちは」から始まり、機嫌良く話をし「今日は楽しかったな」という思い出で別れる。それが基本の人間関係をもう一度大切にしていきたい。そのためにも、子どもの感受性や考え方から学び直して、目覚めて発見できる大人になっていこう。・・・・・・拙いまとめですが、小宮山氏から受けた一番印象的なメッセージはそのようなものでした。
同じ信州生まれの人間として、こんな偉大な先輩の人生の軌跡に接することができて嬉しかったです。教員として親として、もう一度受けとめ学ぶべき豊かな視点があるなと感じました。広く紹介したい思いにかられました。
辛いことや苦しいことに直面したとき、こんなにおおらかに楽天的に生きていくことは正直難しく感じますが、小宮山氏のメッセージをどこかで心に留めてこれから生きていこうと思いました。