第322回 詩集『百歳』~「ありがとう」のあふれる人生
今日は、第1回入試説明会を開催し、多数の受験生・保護者の方々をお迎えします。また午後には第2回英語検定試験があり、5級から2級まで多数の中学生と高校生が受験します。
本日は、一冊の詩集を紹介します。
いま多くの書店の一等地に並べられている、柴田トヨさんの第2詩集『百歳』をご存じでしょうか。第1詩集の『くじけないで』は、この通信の第168回にも紹介させて頂きました。その後も読者はどんどん増加して、海外の韓国・台湾・オランダでも翻訳・出版され、何と150万部を突破するベストセラーとなっています。
現代の日本では、歌謡曲・Jポップの世界ならともかく、純粋な詩の世界は決してポピュラーではありません。90歳を過ぎて詩作を始めた普通のおばあさんの詩集が、これほどまで大勢の人びとの共感を呼んでいることは、大いに注目されることだと思います。
『百歳』に載せられた詩を、私も心にしみる思いで読みました。この中には大震災の被災者の「皆様に」「あなたに」届けられた詩があります。高齢者を標的にした「振り込め詐欺」の加害者と被害者へのメッセージもあります。詩作を教えてくれたひとり息子さんに送る「倅に」はいつも特に心に残るシリーズです。切ない親心の真髄を垣間見る思いです。トヨさんの優しい心配りは身の周りの人びとから世界の動きにまで寄せられます。長い人生で出会った大切な人びとの様々な想い出が回想され、感謝いっぱいの気持ちが表明されます。
あとがきの文章では、これまでの人生の軌跡といまの思いが丁寧に紹介されています。「 ・・・あふれるような気持ちを詩にして、そして、人生の最後に大きな花を咲かせることができました。」「 ・・・私は、今が一番幸せだと思っています。人にやさしくする。そして、やさしくしてもらったら忘れない。これが百年の人生で学んだことです。」とトヨさんはまとめておられます。
柴田トヨさんのおかげで、世間に「詩の復権」「詩心の復権」が進んでいくことを期待します。詩は誰にでも書けるものです。難解な表現を競うような詩もありますが、詩は本当は普通の人たちがトライできる世界です。生徒諸君にももっと詩の鑑賞に親しみ、詩作を楽しんで欲しいなとよく思います。
詩を書くと、日々の平凡な暮らしも見直され、その価値を再発見できます。まわりの人びとや、季節の移ろいや街の風景、世の中の動きなどをていねいに捉えられるようになります。人生や社会を見つめる感受性がもどってくるように感じられます。余分なことばを削っていちばん的確なことばを選び、つないでいく大切さと楽しさにも出会えます。
トヨさんにとって詩作は新たな生きがい、張り合いになりました。残された日々を愛おしみ、楽しみながら生きていく上で大切なリズムになりました。
この詩を読んだ人びとが、自分もやってみようかな、と波動が広がっていくことを期待します。歌の大好きな中学生や高校生には、こんなすてきな詩集との出会いにも促されて、自ら気軽に表現してみようという意欲が湧いていくことを願っています。