第568回 日本史研究者としての旅立ち~ある学園卒業生の挑戦

2012年11月20日


 先日、湘南学園中高の卒業生から、とても嬉しい報告を受けました。
 “佐藤先生”ともう呼ばねばなりませんが、あえて佐藤雄基君、と記させてもらいます。現在は、日本学術振興会の特別研究員として、東京大学史料編纂所を中心に研究活動を行っている、新進気鋭の歴史学者です。

 このたび、佐藤雄基君の博士論文が研究書として公刊されました。
 『日本中世初期の文書と訴訟』と題する書籍で、歴史書、歴史教科書の老舗として知られる山川出版社から、11月上旬に出版されたのです。A5版で300頁を越え、栄誉ある「山川歴史モノグラフ24」の位置づけで出された大作です。
 30代に入って間もない若さで、歴史関係の専門で第一線に位置する山川出版社から単行本が発刊されるとは、専門家の方々の並々ならぬ高い評価がうかがえます。そんな素晴らしい著作を謹呈していただいて、感謝の気持ちでいっぱいです。

 佐藤君とは、湘南学園中高に在学していた時代に、深い関わりがありました。彼は、私が創設した将棋部の一期生でした。途中から将棋を始めてすぐに有段者となり、県大会でベスト8に入ったこともある実力者でした。
 佐藤君が更に有名だったのは、桁外れに優秀な成績でした。いつも学年トップを維持し、東大に現役合格をはたしました。子どもの頃からの歴史好きで、高校の模試で特に世界史では全国トップ(99点)を取ったこともあります。私の拙い世界史の授業に興味を持ってくれました。2回参加してくれた勉強合宿で自習時間にも示していた圧倒的な集中力を想い起こします。ぐいぐい文章を書いていくパワーは抜きん出ていました。
 私が校長になった時には、多忙な合い間をぬって将棋部歴代の部員達に率先して連絡を取ってくれ、盛大な会を設けてくれました。感激と感謝の気持ちでいっぱいでした。

 東京大学へ進学後は、1年生のゼミの出会いを始め、日本史の分野で多くの先生方に触発されました。文学部の日本史学研究室に進み、中世史の新しい分野で探究を続け、論文の執筆を重ねていきます。イェール大学の日本資料ワークショップに東大から派遣されたこともありました。
 膨大な古文書などの史料に向き合いながら、平安時代から鎌倉時代の社会や政治の実相について、佐藤君は一歩一歩解き明かしていきます。その地道な作業、緻密な論理的思考力には強い敬意を覚えます。
 佐藤君をよく知る職場の先生方も、「やっぱり佐藤君はすごいね!」と感嘆しきりでした。これからのご活躍を楽しみにしています。また我々の最大の絆である将棋の対局で、いつかじっくりガチンコできる機会があるように期待しています。