第613回 苦境をはねのけた闘志と集中力に学ぶ

2013年1月30日

 大相撲の初場所は感動的でした。日馬富士が横綱初優勝を全勝で飾ったのです。新横綱となった先場所で終盤5連敗という「史上初の汚点」を残し、“横綱の資格がない”との批判まで受けた後の、劇的な捲土重来です。

 左足首の古傷もうずき、場所前には発熱で稽古を休んで心配されたそうです。体重133kgは「幕内最軽量」というから驚きです。のど輪を繰り出し、一気に懐に潜り込んで次々と技を出す「速攻相撲」が日ごとに鮮やかでした。
 千秋楽の対白鵬・横綱対決は大注目でした。白鵬の抜きん出た強さと風格はいうまでもありません。立ち合いから素早くもろ差しを奪って踏み込み、左下手投げ~寄り切りの圧勝で、自身三度目の全勝優勝を達成したのです。

 「お客さんを喜ばせる激しい相撲をとりたい」という日馬富士は、私も「安馬」の時代からファンでした。あの「全身全霊」~いつもこの言葉を軸にインタビューに応じます。ぴったりの言葉だなと共感します。仕切り前の深い屈伸も有名になりました。足腰の力強さや鋭い立ち合いにしびれます。
 趣味にする絵画はセミプロ級の腕前で、高校時代に個展を開いたほどです。富士山や沖縄の海も描きます。また医療の遅れている母国の検診活動に多額の献金を行い、ウランバートルの障害者雇用施設の運営も行っています。心臓病の子供の慰問など日本の病院も廻っています。「人のために尽くす人間となれ」と常に諭して育ててくれた父親は、数年前に交通事故で亡くなり、場内アナウンスでは出身地を父親の生地に変更しました。

 日馬富士が横綱就任直後の屈辱から、土壇場から奮起して、今回の結果を出した闘志と集中力に学ぶ思いでいます。「敗戦を引きずらない」「一番一番に全身全霊をかける」姿勢が立派です。私も浅いレベルながら将棋という趣味を持っています。一局一局を大切に(感想戦も心掛けます)、敗局から学んで今後につなげることは、顧問としていつも部員達に強調することです。

 国技である大相撲の「国際化」にも改めて驚きます。幕内力士の多国籍化は当たり前になり、今場所は幕内・十両・幕下の優勝がいずれもンゴル出身の力士でした。ともあれ小柄のハンディの中で角界の頂点に立った日馬富士の、今後の長い活躍をファンの一人として応援しています。