第627回 食堂の巡り歩き~神奈川県・街々の魅力
神奈川新聞で楽しみにしているコラムがあります。「かながわ定食紀行」という記事で筆者は今柊二氏、現在は町田市在住です。先週日曜日の紹介が第170回という長期連載です。
神奈川県内の各地を中心に(たまに番外編で全国へとぶ)、様々な街の食堂を紹介します。ごく庶民的なメニューと値段が基本で、その店のこだわりと風情を独特の文体タッチで読ませます。ひょんなきっかけから店を知り、店内を観察し、出てきた料理を食して美味しさを表現し、お腹いっぱい満足して総評価する。いつもの文章のパターンが心地良く、食べて嬉しい、出会えて感激の思いがストレートに伝わります。チャンスがあったらこの店に行ってみよう!とチェックする思いになります。
この連載が文庫本で3冊目になりました。『かながわ定食紀行~もう一杯!』(かもめ文庫)です。横浜や川崎の各地からわが藤沢のあちこちまで、紹介されたお店の所在地は多様です。
“肉汁たっぷり・手作りハンバーグ”“「サバ塩」醤油かけ・絶妙なおかず”“うまみ凝縮・丁寧なレバニラ炒め”“伊勢佐木町の老舗で味わう合体ランチ”・・・・といった具合に全部で50店舗の魅力がプレゼンされ、本最初の定食群カラー写真にも庶民的な説得力があふれます。巻末ではこの連載中に起きた東日本大震災を振り返り、「あの頃の定食」と題して、2011年3月の筆者の生活について、食の風景を忘れない当時の日記が紹介されます。
なお今柊二氏は、定食屋だけでなく横浜中華街にしぼった連載をしたり、私も好きな「立ち食いそば」をメインに取材を続けたこともあります。『立ちそば大全』(竹書房)という文庫本も興味深かったです。
こうした連載や本を読んで印象深いのは、下車したことも多い神奈川県各地の街の風景であり、こだわりの美味しい食堂を営む人びとの意気込みが心に残ります。人口も多くて競争も激しい神奈川県内の各地にはこうした個人商店もたくさんあります。愛着深い地域で自分のお店を懸命に守って働く人たちの姿が伝わってくるのです。在校生やご家族にも気晴らしに読める楽しい本としてお勧めしたいです。お住まいの地域やすぐ近くにある、知っているお店や知らないお店がいくつも見つかることでしょう。何か外食の機会に寄ってみようかと思い立たれるかもしれません。